全遊動と命名したのは㈱釣研の初代社長だった田中釣心(ちょうしん)さんです。こういう釣り方があると教えてくれたのも釣心さんでした。当時はグレがメインターゲットで、グレのタナが変わりやすくなったというテーマでお話していたときに出てきたと記憶しています。
かつてはオキアミを撒いたところがポイントで、グレは二~三ヒロのウキ下で食っていたものでした。しかし、グレは少しずつ養殖・飽食状態となり、マキエの効果は薄れていきます。潮や水温、マキエ、他の魚の影響などでグレのタナが変わりやすくなったのです。たった今までウキ下二ヒロで食っていたのに、いきなり竿一本以上深くしないとヒットしなくなったりと食わせるのが難しくなっていきました。
半遊動ではウキ止めを移動させて深くするか、または浅くするか、とにかくアタリが出るタナを探るしかありません。そんな話をしていたとき、釣心さんが「こんな釣り方があるよ」と教えてくれたのが全遊動でした。それまでは固定・遊動・移動というのがフカセ釣りの仕掛けであり、いずれもウキ下は固定されたものでした。釣心さんが語ってくれた全遊動は従来の釣り方とはまったく異なり、まさに画期的な釣法だったのです。
さらに、そのために開発したというななめウキを見せてくれました。それまで寝ウキという存在はありましたが、斜めに浮かぶウキとは初めての出会いです。それ以来、全遊動との付き合いが始まりました。
メリットその一 ウキ下調整が不要
釣心さんとのお話で出てきたように、全遊動の最大のメリットはウキ止めがなく、サシエのタナを上層から底まで探ることができる点にあります。本来、グレのタナを想定するのは非常に難しく(というか、面倒です)、竿一本でアタリがなければそれより浅くするか、深くするかを試してみて、それで結果が出なければさらにウキ止めを移動させるというのがパターンです。移動範囲は往々にして10~50㎝の範囲で、そのときの状況によって異なります。
全遊動ならそんな手間は不要です。時間はかかりますが、上層から海底までゆっくり沈んでいきますから、グレに食欲があればどこかで食ってくるはず……というのが、この釣法を生み出した理由でした。
今の時代、グレに食わせるにはいくつものハードルをクリアしなければなりません。サシエの先行、マキエとの同調をはじめとして、ヒットポイントへの送り込み、そしてタナの一致です。あ、もちろんサシエが残っていなければなりませんが。
いうまでもなく、グレのタナとウキ下の一致はこの中では大きな比重を占めています。シビアな条件の場合、5~10㎝のズレでも食わない可能性があるといわれています。活性が高ければマキエの効果もあって、多少のズレは気にならないのですが、活性が落ちればきちっと合わせないとヒットに結びついてくれません。
全遊動ならこのタスクが不要になるのですから、これは大きなメリットです。全遊動のメリットはこのほかにもいろいろあって、近年はその部分にスポットライトが当てられていますが、やはりこの点が最大のメリットといっていいでしょう。
ゆっくり沈めることのデメリット
とはいっても、全遊動はいいことずくめではありません。デメリットもいろいろあるのですが、ここではタナを探るという点に絞ってみましょう。
一つ目は、例えば水深10mで活性が低く、底の方でしか食わないケースです。軽い仕掛けを海底まで沈めるにはかなり時間を要します。上層~中層では食わないことが分かっているのに、全遊動では上層からゆっくり沈めなければならず、時間をムダにしてしまいます(仕掛けによってはそれが解消できるものもありますが)。重いガン玉を使って早く沈めると効率的に釣りができるのですから、こういうケースでの全遊動はミスチョイスということになります。
二つ目のデメリットは、仕掛けを沈めすぎる場合が少なくないことです。グレが5mのタナにいるのに、たまたまその水深を仕掛けが通り過ぎてしまうともうヒットは望めません。グレは自分より下に位置するエサに見向きもしないことは、グレ釣り師なら誰でも知っています。それなのに、全遊動ではしばしばそれをやってしまうのです。
もちろん、理由はあります。全遊動の糸送りは難度が高く、往々にして釣り人は仕掛けを沈めることに集中しがちです。それに加えて、釣り人の多くは、深場ほど、沖ほど大きい魚が釣れるという信仰を持っています。その結果、なのです。
グレ釣りで全遊動を選択した場合、このことには充分注意する必要があります。
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