昔々の男女群島でのお話です。
なんとしてもアラを釣りたくて準備万端整えた三人組が男島西岸のとある磯に上がりました。早々に夕食を済ませてアラ釣りの仕掛けを整えて、迫りくる夕闇を待ち構えていました。そのとき、一隻の渡船がやってきて、彼らの前方50mほど沖の小さな磯に一人の釣り人を下ろしました。
と、ここまではよかったのですが、なんと、その釣り人は二本のポールを立て、その両先端に大きなライトをセットしたのです。そして、案の定、大きな光量で点灯。周囲を煌々と照らしたのです。
三人のアラ釣り組は堪ったものではありません。そして、一斉に叫び始めました。
「明かりを消せー!」
「電気を消さんか!」
「魚が逃げるやろー!」
しかし、距離の離れた本人に通じることはなく、一向に明かりを消す気配はありません。
やがて三人はヘトヘトになり、声も枯れ果て、明かりを消させる努力を放棄してしまいます。もちろん、アラのアタリなどなく、夜が明けて船が来たら絶対に文句を言ってやろうと心に決めた三人でした。
そして、夜明け前、早ばやと迎えにきた渡船に乗り、張本人である釣り人は去っていきました。三人は声もなくそれを見守ったのでした。
それ以降、元凶となった釣り人が上がった磯は「明かりを消瀬」と呼ばれるようになりました……とさ。
海を照らすのはタブー
ボクらが釣りを始めた当初は、暗い間は決して海を照らしてはいけないと教わりました。魚は普段とは異なることに遭遇すると驚いて逃げ、隠れてしまいます。それを避けるには海面を照らさない……なのです。
チヌの夜釣りではタバコの火さえ手のひらで隠しました。エサを付け替えたり仕掛けを変えるときは反対を向いてやれと教わりました。魚を掬うときも、ほんの少しだけ海を照らすようにと厳しくいわれました。
というのに、最近、堤防で煌々と海を照らす釣り人にお目にかかっています。みんながみんなチヌを釣ろうとしているわけではなく、アジやイカ、タチウオ狙いの人もいるでしょう。それなりに海を照らす理由があるのかもしれません。ですが、周囲の釣り人への気配りが欠けているような気がします。
とはいえ、これは難しい問題です。先客がいるのにあとからやってきて集魚灯を点したとすれば責められても仕方はないでしょう。反対に、誰もいないから集魚灯を照らしていたところにあとからやってきたとしたら、この場合は諦めるしかないというのがお決まりのパターンのようです。つまり、先客優先というわけです。
この辺り、カゴ釣りとフカセ釣りの関係に似ていますが、距離=間隔とも絡んできますからいちがいには決めつけられません。あとからやって来た釣り人が集魚灯を点灯したとしても、100mも離れていれば問題はないでしょうし、それが70~50mでも差しさわりはないような気がします。
といっても、堤防にはビギナーが多く、マナーを知らない人々が次々とやって来ます。そんな釣り人に囲まれても楽しめる工夫は欠かせません。
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