ななめウキからスタートした全遊動ですが、その後の全遊動用のウキはさまざまな方向に向かいます。もちろん、それは理由があってのことなのですが、では全遊動ビギナーはどれから始めたらいいかという問題になります。結論からいうと、使い方に慣れればどんなウキでもいいのですが(極論です)、どちらかといえばどっしりしたタイプが使いやすいかもしれません。
ななめウキのその後
ななめウキと全遊動のコンビは、当初はそれほど人気を集めるには至っていません。タナを探る必然性は、当時はそれほど求められてなかったからでしょう。けれど、グレが次第に釣りづらくなってゆくとともに、全遊動は脚光を浴びることになります。そういう背景で、ななめウキはどうなっていったかというと……。
残念ながら一軍レギュラーの座からは滑り落ちてしまいます。道糸をどんどん送り込むにはウキを直立させるよりも斜めの方が都合がいいという発想から誕生したのですが、使い込んでゆくうちにマイナス要素が知られるようになります。そのマイナス要素とは、ななめウキが回転することです。
ななめウキをイメージした図を見ると、すべてラインは右、または左からななめウキの中を通り、反対側に抜けています。写真に掲載している赤いラインがそれです。
ところが、風や流れの影響でウキが反対を向き、黄色いラインのようになることが珍しくないのです。ラインを操作すればウキの向きを一時的に修正することは可能ですが、それを何度もやればスムーズなライン送りは難しくなります。特に、左方から風が吹いていようものなら最悪です。
その後、釣研は全遊動EX-R、全遊動テクニカル、カットななめ円錐・技、ななめウキRとシリーズ展開しています。全体として余浮力を削り、ぎりぎりの状態で浮かぶように設定しています。風の影響を減らし、同時に食い込み抵抗を削っているのですが、根本的な解決には至っていません。
スルスル釣りではノーマルウキが標準
かつてフカセ釣りの聖地と呼ばれた阿波エリアでは、古くからスルスル釣りという釣法が普及していました。ウキ止めを使わず上から下まで探るという基本的には全遊動と同じ釣り方です。厳密には微妙な違いがあるといわれていましたが、今ではまったく同一に扱われています。さらに、全遊動という用語に飲み込まれ、スルスル釣りを目にする、耳にする機会は少なくなっています。
このスルスル釣りで使われていたのはノーマルの中通しウキです。ななめウキなどの特異なウキは使用されていません。つまり、通常の中通しウキでタナを探っていたわけで、阿波にはななめウキに頼る伝統はなかったのです。そして、ノーマルのウキでも充分タナを探ることが可能なのを全国に知らしめる役も果たしています。ガン玉で調整すればウキが直立していてもラインは出てゆくわけで、ななめウキのように反対を向く恐れもありません。さらに、センターパイプの直径を大きくすれば軽いガン玉でも仕掛けは落ちてゆくのですから、斜めに浮かせるメリットはカバーできることになります。
ノーマルの中通し円錐ウキには反対を向かない以外のメリットがあります。グレのタナが安定すればすぐ半遊動に変更できる点です。なるほどウキ止めで結べばシモリ玉を使わなくてもウキは止まります。切り落とせば再び全遊動に戻せます(ななめウキでもこれは可能ですが)。
水平ウキでファンを獲得した全層釣法
ななめウキを開発して全遊動とネーミングしたのはウキメーカーである釣研です。その一方で、全層釣法とネーミングしたメーカーがあります。それがキザクラです。開発したウキはGTR。ウキは水平に浮かぶという特異な特徴を持っています。センターパイプは5㎜径と大きく、ビギナーでも簡単に仕掛けを送り込むことができ、多くの釣り人の支持を得ます。
キザクラは水平ウキシリーズに加えてIDRシリーズ、全層どんぐりシリーズと直立したウキも開発し、全層釣法という用語を定着させました。IDRとはセンターパイプの中央部を広くしてラインの摩擦を少なくしたタイプです。また、全層どんぐりは上部のセンターパイプが5㎜と広いテーパー管を採用しています。
ラインの出方や魚が食ったときの反応などはそれぞれ異なりますから、状況に応じて使い分けることができればベターです。とはいえ、それなりに場数を踏んで使い方を学ばなければ正確な判断は下せません。これはタックルすべてにいえるのですが、とりあえずは一つのウキを使い込んでその特徴を把握することがスタートになります。
このように見てくると、全遊動ビギナーの皆さんにおすすめできるウキは限定できないということになります。
全遊動の条件は無風、ベタ凪がベストの状態で、せいぜい微風、さざ波までです。そのような条件ならななめウキや水平ウキでも反対を向くことはありませんから、ビギナーの皆さんでも釣りづらくはないでしょう。
対して、ノーマルの円錐ウキなら、どっしりしたタイプがボクのおすすめです。全遊動ではウキが基点となりますから、軽々しく移動されると困るのです。全遊動ではラインを送るばかりではありません。サシエを先行させるためラインを引っ張ることもあるからです。
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